旅行から戻って、ご紹介するメニューを絞り込むと、
取材ノート、レシピ本、インターネットの情報などを元に僕がレシピを書きます。

それを参考にともこが試作を行い、
微調整しながら現地で食べた料理のイメージに近付けて行きます。
大体、1、2回の試作で再現できますが、中には微妙な違いが埋められず、
1カ月近くかかってしまったものもありました。

意外かもしれませんけれど、
再現するだけであれば、それほど難しい話ではありません。
毎回、頭を捻るのは、提供ラインを作ることです。

ランダムに入るアラカルトのオーダーを最短時間でこなしつつ、
すべてを最も美味しい状態で提供し続けること。
そうするには、仕入れから仕込み、最終調理から提供、廃棄までの、
最適化された流れを作る必要があります。

これが完成した段階になると、レシピは僕が書いたものから、
ともこ独自のものへと変わっています。

多分、ここがプロとアマチュアの一番大きな違いではないでしょうか。

全てを事前に用意し、オーダーが入ってから温めるだけであれば、
お客さまをお待たせすることはありません。
しかし、味の方は、僕たちが食べた時の感動を伝えるものとは、
かけ離れたものになってしまうでしょう。

反対に味だけを優先するのであれば、
あらかたのパーツをアフターオーダーで作ればいいのですが、
これでは2時間経っても料理が出て来ない、なんてことになりかねません。

このトレードオフの関係から、
仕込みと最終調理段階の最適な境界線を見極めるのは、かなり専門的な判断となります。

最後にもうひとつ、ととら亭ならでは悩みをお話しましょう。

料理業界の慣例として、独立する場合は、
修業で習った料理を別の場所でやるのが一般的です。
例えばフレンチで修業したらフレンチ。
和食なら和食。
イタリアンで修業していたコックさんが、
突然、寿司屋を開業したなんて話は聞いたことがありません。

ところが、ととら亭は「旅の食堂」。
ある時はチュニジア料理をやっていたかと思えば、
3カ月後にはメキシコ料理をやることもあります。

ともこが修業したのはフランス料理とドイツ料理なので、
以前の職場に電話して、
「ヨルダン料理でヨーグルトのソースを作るのですけど、
沸騰した時に分離させない方法を教えて下さい!」
と訊いても、恩師は回答に困ってしまいます。

旅のメニューのリリースが、
取材から帰って概ね3カ月後になってしまう理由は、
こんなところにもあるのです。

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